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2004年 02月 29日

フットノート8 タイタン とは?

ダッチオーブンは 煮る・焼く・蒸す・揚げる・燻製を作る・押し寿司の重しにする などなど
調理器具としての守備範囲がものすごく広いのですが、特に日本料理を作る際に
上記の表現だけではカヴァーできない調理を多用していることに気がつきました。

つまり、表現は微妙なのですが、 「煮る」 と 「蒸し焼き」 の中間ぐらいの用途が
私の場合によくあるように思いました。 
焼き物ではないものを作るのだけれども、決して汁物やスープではない・・・
という微妙なところ。

日本語では主食であるお米を中心に 「炊く」 とか 「炊きあげる」 といいます。
さらに、関西、特に京都では 「山芋の炊いたん」 とかいうように言います。

さて、ここで 「タイタン」 という言葉のイメージをふくらますために
ストーリー(フィクション)を作りました。 
ただし、フィクションですが登場する団体名などは実在のものです。

お暇だったら是非とも読んでください。



ケイト・アンデルセン教授は今年で日本滞在20年となる。
上智大学で英米文学を教えている。
合衆国テネシー州出身であり、ダッチオーブンで有名なロッジ社のボブ社長とは
ハイスクール時代の同級生である。
たいへんな日本通であり、アメリカ南部なまりながら日本語も堪能である。
野球は幼少の頃よりアトランタ・ブレーブスの大ファンであるが
日本のプロ野球では東京の新宿区に在住していることもあり巨人ファンである。
上智大学に助手として来日した直後の時期のことであるが、
テレビの資生堂のコマーシャルで元巨人の名球会の選手たちが
出演した時、そのBGMにマーラーの交響曲第1番の 「巨人」 が使われていた。
そのコマーシャルを見た彼女(ケイト・アンデルセン)は、

 マーラーの巨人 は ジャイアンツではあーりません。
 マーラーは この題名をジャン・パウルの小説からとっていまーす。
 同じ巨人でもジャイアンツではなくタイタンでーす。
 タイタニックのタイタンでーす。
 まさにシャレにならんといわねばなーりません。
 
という厳しい指摘を資生堂広報部に行なった。
そんな彼女が、一通りの観光ではなく、大学の春休みの期間に
「女の京都一人旅」 に出かけた。

分け入っても分け入ってもビルの谷間の新宿区とは違い、
京都では左京区の山のなかにも分け入り、春の京都の一人旅を満喫した。
 ♪ KI・YO・TO ~ KI・YO・TO のお寺の鐘が鳴る ♪
夜になり、彼女は祇園から河原町、木屋町付近を散策した。
木屋町の路地裏の居酒屋に、彼女はふらっと入った。

そこは彼女が来日した20年前には
「一見さんはお断りだす うちら小さな商売ですけどな
ご近所と常連さんだけを大切にしてやってまんのや」
というタイプのお店であったが、今はほどんどそういうお店はない。
わずかに学生には入りにくい佇まいを残していた。

「ごめんくださーい」
と彼女はそのお店に入った。

「お入りやす」
と、店の主人はマニュアル的に言った。
横目でチラッと彼女を観察し、迷い込んで来たタイプや冷やかしの
外国人旅行者ではなく、彼女が着ていたものがユニクロだったのを
一瞬にして確認し、日本滞在が長いと判断してぶっきらぼうながら招き入れたのだ。
彼女は名前はケイト・アンデルセンであるが、旅行中の衣料は
着替えても着替えてもユニクロ。

そこは、カウンターの上に土鍋で煮きった、いわゆる 「おばんざい」
を土鍋のふたを外したままに並べておくというスタイルだった。

彼女は目の前の土鍋を指さして、学者らしい好奇心で

「これは、なんですかぁ?」 と訊いた。

主人はぶっきらぼうに

「棒鱈と里芋の炊いたん」 と答えた。

 「おっー ! タイタン !
  では、そのとなりのものはなんですかぁ?」 

「ニシンと蕗の炊いたん」

「おー、これもタイタン!ではそのとなりはなんですかぁ?」

「聖護院かぶの炊いたん」

「おーまいがーっ! みんなタイタンですかぁ?」

「そうや、みんな炊いたんや」

というやりとりのうち、ケイトはその3種をそれぞれ小鉢に盛り合わせてもらい、
日本酒の人肌よりもぬるいお燗の日本酒で堪能した。

ケイトはその味を堪能しながら、
「熱いものは熱く、冷たいものは冷たく」 という信条が基本であるはずの
日本料理のなかで、熱くもなく、冷たくもないこのファジーなタイタンがその根底に
あると直感したのだ。 
蒸すとか蒸し焼きとかという調理にくらべれば煮るに近い。
しかし煮るといってもこの調理は決してボイルではない。
それがタイタン。大胆にしてタイタン。
そして熱いものも冷たいものも海も山も舌の上の橋渡しをしてくれるぬるい日本酒。
北の昆布と南の鰹が京都で出会って結合した出汁が京野菜のなかに凝縮されていた。

それを味わいながらケイトの舌から全身にマーラーの交響曲第1番ニ長調が
響きわたった。ニ長調であるのに明るいという印象よりはどんよりとした重厚さと
荘厳さが常に響くシンフォニー。
この時代になっても電子楽器で演奏されることなどは考えられない、
あくまでもアコーステックでなければならない響きがそこにあった。

マーラー作曲交響曲第一番ニ長調 巨人 (タイタン)

BYマーヒー

 
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by kaneniwa | 2004-02-29 00:08 | 雑草


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