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草仏教ブログ

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2009年 08月 12日

名曲草鑑賞(17) 原田知世の 時をかける少女

昨日、10歳の長女が
 「今夜8時から10時まで 時をかける少女 
  をテレビでやるから録画してね 」
と私に頼んだ。

 「お前も、とうとう筒井康隆ワールドに入っていく年齢になったのか」
と思った。

録画したものは、ちょっとだけ一緒に見ていたが、
私の頭にあった1983年の実写版映画(原田知世主演) ではなく、
2006年のアニメ版であった。
その主題歌はガーネットであったが、
私の頭のなかは1984年の前年の 1Q83 となり、
松任谷由実作の 「時をかける少女」 が鳴り響き、
タイムトラベラーとなってしまった。



竹田青嗣(たけだ せいじ)さんと西武線練馬駅前のカラオケスナックに行ったことがある。
現在は早稲田大学国際教養学部の教授をされているが、明治学院大学の国際学部教授を
されていた時代の話だ。

竹田さんの歌う井上陽水は絶品だった。なんせ1986年に 『陽水の快楽』 という本も
書かれている人で、当時は学園祭用とはいえバンドも組んでいてリードボーカルだったのだ。

その時、筒井康隆の 『文学部唯野教授』 という本が出たばかりだったので、
マーヒーは竹田さんに 
「あそこに出てくるフッサールやハイデッカーについての解釈をどう思われますか?」
と尋ねた。 
その時に同行していたマーヒーの先輩は 
「竹田さんに何ということを聞くの?」 と言ったが、
その答えにもっとも注目して耳をそばだてていた。

「あれはデタラメですね・・・」

とだけ言われたので、話はそこで終わってしまった。
井上陽水の話では盛り上がったので、筒井康隆の話でも盛り上がりたかった。
というよりも、私の願望として、難解な哲学や現代思想をかみ砕く天才の竹田さんには、
フィクション作家としておもしろおかしくものを書く筒井康隆とはスタンスはまったく違う
ことは自明のこととして、その上で 「バカ話のなかの真実」 を聞き開きたかったのだ。

マーヒーはそこで 「時をかける少女」 をカラオケで歌おうと思った。
ハイデッカーの 『存在と時間』 などを読んだことがないのはもちろん、
その書名や著者名さえ知らない者が 「存在と時間」 を意識する物語の歌で
あるからだ。

ところが・・・何たることか、今のような通信カラオケシステムがない時代だったので、
歌のリスト本のなかに 「時をかける少女」 はなかった。
これまでの人生で、あの時ほど目的の曲がなかったことで悔しい思いをしたことはない。

それから5年後ぐらい経った時、長野の寺院で竹田さんと再会する。
その時には加藤典洋さんもいっしょで、その時の会食のバーベキューの
肉を焼いていたのは武田定光さんというメンバーだった。
「胃腸薬はタケダ」 という定評があるが、 私にとっては 「時間論といえばタケダ」 だ。
私が武田定光さんに勝てるのはバーベキューだけだけれども。

ともかく、その練馬のスナックでの 「時をかける少女」 を歌いたいという思いは
今度は竹田青嗣さんの存在とはまったく無関係で私のなかに溜まり、
時間は数年後、場所は西武線つながりで池袋のキャバクラでふと実現した。
短いタイムトラベルと西武線トラベルがあったのだ。
歌いはじめて、私は自分でもびっくりした。 
その楽曲を歌いながら思いもよらない自分の思いを投影していたからだ。
その時の私は 親鸞聖人の 『教行信証』 のなかのある一節から
「救いというものを光でたとえる宗教は数多いが、
船にたとえる宗教は浄土真宗だけではないか」
ということを漠然と考えていた。

 ♪ 愛は輝く舟 過去も未来も星座も越えるから

というフレーズが、そこにあった。
これは、松任谷由実の最高傑作ではないかと思ったのだ。
さらに奇跡は起こった。

私の声というものは声域が低音寄りである。

そのことは自分では知っているつもりなので、
女性ボーカルものを歌う時には 多少の 「ムリ」 をする。
それで失敗することもあるが、 「ムリ」 をして上手くいった時には
どうも私の声からは高音域で 「超音波」 が出るみたいだ。
イルカの鳴声などに含まれている 「人を泣かせることができる音質」 だ。
その再生には偶発的な要素が大きいのが難点であるが、
どうも条件さえ整えばそういう成分が含まれていたみたいだ。

カラオケを歌い終わって席に戻ると
(ステージがあるキャバクラでした)
キャバ嬢の数名が泣いていたのだ。

「何で泣けてくるのかわからなーい」
と言いつつ涙を拭いていた。

ああ、また女を泣かせてしもうた。

昨晩、久しぶりに 「時をかける少女」 という楽曲を意識して、
ささやかながら未来への夢ができた。

この楽曲を、養護老人施設のようなところでスローバラードにアレンジして
弾き語ってみたいと突然思った。

♪ あなた 私のもとから 突然 消えたり しないでね

この冒頭の歌詞から、 千の風になる前に伝えたいメッセージが
満ちあふれている楽曲だと思うのだ。

10歳の私の娘(長女) は、 これから 時をかける少女 になっていく。
今はせいぜい

時(という字)を書ける少女というところだ。


マーヒー加藤

by kaneniwa | 2009-08-12 05:32 | 草音


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