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2011年 03月 04日

ジョン・スタインベック(John Steinbeck) に捧ぐ

京都大学入試問題流出事件で仙台市在住の予備校生が捕まった。
現在、京都の川端警察署で取り調べを受けている。

単独犯であるらしい、ということでちょっと驚いた。

そのことは本題ではなく、そこから連想したことが中心。

大学生時代の一般教養の英語で、
試験(入試ではなく大学の前期試験や後期試験)の時に
「英和辞典、英和辞書のみ持ち込みOK」
というものがあった。

おそらくだが、文学部でも英文科以外の学生は
ほとんど高校3年生の時よりも英語が弱くなっているので、
辞書持ち込みOKは、講師の先生からの「温情」だったと言える。

プロレスで 「5秒以内なら反則OK」 という、
ルールとしては変則で矛盾した措置に似ている。

テキストはスタインベックなどの短編がいくつか収められた
アメリカ文学短編集みたいなものだったように記憶している。

私は学生時代、なぜか午前中は二日酔いになっているという持病があり、
アルバイトが入るとそっちを優先させてしまうことも多かった。
したがって出席率の方は芳しくなかったこともあり、
試験の方で何とか満点か満点に近い成績が欲しかった。

最初は、受験生のようにわからない単語のところだけに事前に
付箋を貼っていただけだったが(まだポストイットの普及前)
「単語の意味がわかったからといって英文和訳で満点が
 取れるとは限らない」
という常識に気がつき、
さっそく新潮文庫の『スタインベック短編集』を買ってきて、
大久保康雄の翻訳を辞書の余白にそのまんま書いていた。
「こんなことは朝めし前だ」
と思ったが、始めるとなかなか大変な作業であった。

これがカンニングか?と問われたらちょっと困るが
「5秒以内は反則OK」 のプロレスルールのなかのルールを守りつつ、
それなりに真剣に勉強したのだということは言える。
アブドーラ・ザ・ブッチャーが入念に凶器シューズの手入れをしている状態や
タイガー・ジェット・シンがサーベルを磨くのに近いかな?
いや、講師だって「制限付きで丸腰でなくていい」と言っているから
クロスカントリーのスキー選手が入念にワックスを板に塗る感覚だ。
さっそくスタインベックの短編である 「朝めし」(Breakfast)の
大久保康雄訳を丹念に見やすい字で辞書の余白に書いていった。

すると、テキストとして黒板の上で解説されている時には
何とも思わなかったのもが、この 「写経効果」 というべきもので
文学作品としての味わいが、じんわりと感じられた。
頭からは理解できないものが手から入ってきた感覚だ。

それを「写経」し終えた後、
時あたかも大橋巨泉の「クイズダービー」という番組で
事前に問題を教えてもらっていたであろう はらたいら(漫画家)が、
違うクイズの解答としてその答えらしきものを書いていたが、
収録のし直しが困難だったのかそのまま放送されていたという
お間抜け事件もあったので、
はらたいら のような恥ずかしいヘマがあってはいけないと思って
余白への書き込みを日英両言語による「対訳式」にした。

英文の方の 「写経効果」はさらにあり、
『怒りの葡萄』とか『エデンの東』のような長編というわけではないが
スタインベックの文学世界に入門することができたわけである。

「朝めし」(Breakfast)は英文のテキストでも
文庫本の日本語でも5ページほどの、まさに短編であった。

それを「写経」しつつ文学作品として味わい、
ある疑問をもった。

「朝めし」(Breakfast)の舞台は明らかにアウトドアである。
だのに、「オーブン」でベーコンやら卵やらを焼いている。
「オーブン」は原文でもそっけなく「OVEN」である。
手元にある辞書(当然、手元にあるわけですね)で
「OVEN」を繙けば、バーベキュー場にあるレンガを積んだような
かまどのようなものも「OVEN」と呼んでいいことはわかったが、
原文と翻訳を何度もその作業で読んでいると、そういうレンガのオーブンは
まったくピンとこないのだ。

こうして私は今から30年近く前、エーアンドエフが
ロッジのダッチオーブンを輸入して販売する以前に
ダッチオーブン というものがこの世に存在するということを
ジョン・スタインベックという文豪によって教えられたのだ。

マーヒー加藤
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by kaneniwa | 2011-03-04 15:29 | 草評


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