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2011年 05月 31日

画狂老人卍 (がきょうろうじんまんじ) を語ってみる

b0061413_12544550.jpg 朝起きたら、隣に知らない男が寝ていた。朝5時に、その知らない男の携帯電話の目覚ましアラームが激しく鳴る。それで私は朝起きたのだ。私は熟睡しているその知らない男を優しく揺り起こしてやった。「君、君、アラームが鳴っているよ、何か大事な用事があるんじゃないか?」知らない男は目をこすりながら起きて「あ、加藤さん、すみません」と言って、携帯電話のアラームを止めて別な時間にアラーム設定をすると大きなアクビをして、またすぐに寝た。どうやら私の知らないこの男は私のことを知っているみたいだ。私も彼の寝顔を見ながらどこかで見たことがある顔かどうかを数分間観察してみたのだが覚えのある顔ではない。「ま、いっか」とすぐに私も寝た。しかし、30分後の朝5時30分に再びアラームが鳴り、30分前のリプレイがあった。朝の6時、3度目のアラームが鳴って2度目のリプレイが起ころうとした時、さすがの私も隣で寝ていた見ず知らずの男に朝っぱらから説教をたれることになった。「おい、ここは俺の部屋だが、まずお前は誰だ?」「あ、すみません加藤さん、Mです」・・・Mという名字にはまったく覚えがなかった。「M君、今日の君の予定はどうなっている?」「はい、朝9時にホテルの朝食バイキング会場で新郎と待ち合わせをしています」「そんなら俺もそうだ・・・おい!携帯のアラームを6時30分に合わせる作業をやめろ!一発で起きれないならスヌース設定というものを知らないのか?だいたい9時からの予定で何で5時にアラーム鳴らすの、お前は?どっちみち俺が朝の7時30分にモーニングコールをセットしているからそれでいいだろう?」「・・・はい、すみませんでした」「わかったら携帯切って寝ろ!」「・・・はい、すみませんでした」 という一幕があって小間切れの睡眠を続けた。朝7時半、ホテルの部屋の固定電話がモーニングコールで鳴ったのだが、何とそれにさっきMと名のった男が出てすぐに切って眠ろうとしたので「こらっ!勝手なことするな!」と怒鳴って起きた朝だった。 朝9時、Mを半ば連行するような形で朝食会場に行き、新郎と会ってM君のことを聞いた。M君は新郎の学生時代からのパシリ(舎弟)であり、15年ほど前に私は彼に会っていた。ただし、その時にM君はFという名字であった。結婚して名字が変わっていたのと15年間であまりにも風貌が変わりすぎたため、彼は私にとっての「知らない男」となっていたのだった。 M君は昨日の結婚式に事情で欠席の連絡を出していたのだが、夕方になってから親分(新郎)の2次会の終わりの方でもいいからひと目でも顔を出したい気持ちになり、愛知県の西尾市から長野市まで車を飛ばしてやって来たのだそうだ。朝5時にアラームをかけていたのは、昨夜、何とか間に合った2次会でベロンベロンになるまでは早朝に西尾市に車で戻るつもりだったのかもしれない。ベロンベロンになったものの、新郎新婦の部屋で仮眠をとるのはさすがに遠慮して私の部屋に潜り込んできたという顛末をようやく理解することができた。 長い前置きになってしまったが、私が長野県小布施町の北斎館を訪ねた朝はそんな具合だった。





b0061413_1255985.jpg 二日酔いといえば二日酔いであり、シュールな朝の一幕はあったものの、祝いのバカ騒ぎであったのでメンタル面のダメージはほとんどない。車を運転してやってきた結婚式の帰り道、小布施町の北斎舘に立ち寄ることにした。本当は長野市から新潟に帰るまでにいくつか目をつけていたキャンプ場の視察をして帰宅する予定にしていたのだが、朝から激しい雨も降ってきて気が変わった。小布施は何度も訪問したり通り過ぎたことはあっても、北斎舘には一度も入ったことがなかったのだ。晴耕雨読ではないけれども、何となく雨だから美術館というのは自分で納得の行動であった。ちょうど車に積んであった緑色の和風の傘も、「私をさして北斎を見に行け」と言っているようだった。普通車専用の北斎舘東駐車場(有料で300円)というところから北斎舘までのアプローチがちょっと良かった。普通の民家もある路地を150メートルほど歩いて行く。路地を抜けて右手に雑貨屋さん、正面にジャム屋さんが見えると左手側が北斎舘だ。

b0061413_1255298.jpg まず、何度も改名をしている北斎の小布施滞在時代、つまり81才を過ぎた頃の名前・画狂老人卍(がきょうろうじんまんじ)の名のりにインパクトがあった。なんじゃ!!この「あ北斎」名前は?しかし、この名のりで絵は北斎である。肉筆画などはその色といい線といいビンビンに感じてくる。青少年も多く訪れる北斎舘であるから、春画のスゴイのが展示されているというわけではない。(展示もされている北斎漫画のなかにたまに女性の裸体はあることはある) だのに、絵に色気があるのだ。北斎の絵はセクシィなのだ。色に色気があるのは当たり前みたいな話だ。ましてやその色をあやつっているのがあの北斎なのだから。色もそうだが、とにかく線がセクシィ。なるほど、わかった。北斎舘で自分のことを少しわかった。考えたら自分は、たとえば「女性のヒップライン」という線だけでも欲情できうる資質というか要素というか、本性をもった人間であるのだなぁ。

b0061413_1255491.jpg 北斎舘の展示の目玉である「北斎が天井画を手がけた屋台」というものには驚いた。その驚きには私の中途半端な知識が幸いした。北斎が天井画を手がけた屋台の存在は知っていたのだが、それは蕎麦屋や初期江戸前寿司の屋台なるものを想像していたのだ。それはそれで北斎が関わった食べ物屋台が存在していたらファンタスティックな話なのだが、巨大なお祭り屋台(山車のようなもの)であるとは知らなかった。しかもその天井画というのが「太陽と龍」と「夜空の鳳凰」である。まず私の頭のなかにあった食べ物屋台とお祭り屋台のサイズのギャップにギョギョギョ。そして絵を見てギョエェー!いい意味でのサプライズだった。さらに???だったのが肉筆画の「椿と鮭の切り身」であった。何じゃこの絵は?(これもいい意味でのサプライズ) 題名の通り、鮭の切り身のバックに椿を置いて書いてある。北斎レッドの赤を基調とした肉筆画であるが、この取り合わせは江戸時代にしてシュールレアリズムですか?そして北斎の意図にかなっているかどうかはわからないが、何だか椿も鮭の切り身もセクシィな質感なのである。

b0061413_12561113.jpg 自分でも思うけれども美術論評のようなものは得意ではない。まあブログなので感じたままを記するなら 「ここからの展開」 というものを味わえた。北斎が名だたるフランスの印象派画家に影響を与え、さらにはドビッシーのような作曲家にまでインスピレーションを与えて交響詩を書かせた理由のようなものを感じることができた。 「デビュー作にはその人のすべてがある」というのは主に文学評論で使われるフレーズだし、北斎舘に展示されているのはむしろ老境(しっかしスゲエ老人だなぁ)に入ってからの作品が主流なのでなおさら不適当かもしれない。しかし、あくまで私が感じたのが「ここから広がっていった世界」のことなのだから仕方ない。 音楽の方の話で半ば逃げるのだが、ビートルズはメジャー・デビュー作である「Love me do」が私はいちばん好きである。イントロから漂うブルースの臭い。(やっぱり全ビートルズナンバーのなかでもとびきりブルース色は強いと思う) ジョン・レノンが演奏しているというブルース・ハープ。(キーがGの曲でブルースハープのキーはCで、これをムリして合わせていくということでブルースフィーリングが醸し出されるということを長年知らずに大きなまわり道をした)最初に発せられる歌詞であり、ずっとメンバーたちのキーワードになった「Love」。一通りのビートルズナンバーを知った後で聞くからということもあるけれども、このシンプルな曲のなかにビートルズのその後のバリエーションが凝縮されていると感じようと思えば感じることができる。そしてまた、ビートルズが影響を与えたとてつもなく広く大きな世界のことまで感じながら「Love me do」を聴くと、やはりシンプルな曲であるだけにその味わいはディープなのだ。 長いブログ記事になってしまって、それをまとめようなどという気はないけれども「新たに出会う人との社交デビュー」という意味も後からついてくる結婚披露宴である。その帰り道、ワルとだらしなさをもちながらも絶対に憎めない人柄をもつ新郎の「これから広がっていく世界」への想いを重ね合わせながら、結婚披露宴出席の帰り道に北斎舘に寄れたことは本当に良かった。


マーヒー加藤
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by kaneniwa | 2011-05-31 17:12 | 雑草


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