2011年 12月 31日

大震災名言録

あと数時間で終わる2011年。
3月11日以降、200年以上前に書かれた古典を除けば
あまり本を読む気にはならなかった。

現代社会の闇を警告してくれていた本はありがたいと思っていたが、
危機感をもつのは危機への予感を察知する時にしみ入ってくるのであり、
現実に危機が押し寄せていることをひしひしと感じる時期には
むなしく響きすぎたということがあると思う。

そんななか、今年、何度も読み返した本が1冊ある。
1997年の8月に光文社から出た本で
(現在は光文社からは出ていない)
『大震災名言録 「忘れたころ」のための知恵』
という本である。

著者は藤緒潔 という人で神戸市出身。
出身の小中高の学校がすべて避難所になった被災者である。
被災者であるが、2年以上経たなければこの本を出せなかった。

この本が阪神淡路大震災から約2年半を経て出版された頃、
たまたま私はあらゆる名言集、箴言集、アフォリズム集を買い集めており、
それが塊となっていた本棚からつい手にとって3月下旬から読み始めた。

たとえばボランティアがもってきた中古のファミコンを借りて、
それまでまったくそのたぐいのゲームはさわったこともなかったのに
ごく短期間にファイナルファンタジーのⅠからⅢまでを
ファミコンだこを作りながらクリアーしてしまった大正生まれの
「ファイナルファンタジーばあさん」
など、新聞やテレビには出てこなかった巷の人間模様が
たくさん書いてあり、
笑いも涙もとまらなくなった。

阪神大震災は5時16分という早朝に起こった。
阪急神戸線をボーダーとしてそこより北では
激しい地震があったことは誰もが認識していても
家が倒壊したわけでもなく、テレビも映らなかったために
朝の7時台には普通に出勤のために駅に行った人も少なくなかったという。
そのなかの一人、Kくんは阪急岡本駅で駅員に
「ダイヤそうとう遅れますよね?」
と尋ねたところ
「きみ、ダイヤどころやない。みんな人生のダイヤ狂ったんや」
と返されたという。

このようなエピソード、市井の名言録でいっぱいの本なのであるが、
まことに見事である。
大震災が起こったのにその事情を認識せずに会社に出勤しようとするKくんは
まさに漫才でいうところのボケの役が言うようなセリフを自然に言っていた。
そこへのツッコミが
「みんな人生のダイヤ狂ったんや」
である。
兵庫県民は被災した後も3兆円(被災後2年間・推定)の税金を収めた。
避難所からネクタイをして出勤した人の分も含め、積もり積もっての額である。

東日本大震災から、2年経っても3年経っても
おそらくこのような本は出てこないと思う。
あの阪神淡路の大惨事から見ても天災も人災も大き過ぎるからだ。
特に原子力発電所の事故という最悪の人災は、
数十年単位での解決や解消ということさえ難しいかもしれない。

そして、震災の規模の違いの他に気質の違いが確かにある。
関西とは違って素早く鋭くリズミカルにツッコミを入れる文化は
東日本では希薄である。

それでも、いつか、とてつもない言葉が
東日本、とりわけ東北から出てくる可能性はある。
お笑いに関することだけではない。
ものすごく深いものが出てくるような気がする。

漫画家では、宮城県出身で現在も仙台市を拠点とする
いがらしみきお の今後に注目したい。
一時期、このような4コマを描く人は
とてつもなくクレージー過ぎる世界に入っていくのではないか?
と思いつつ、一時期は「この作者はどうなっていくのだろうか」と
息をのむように作品を見ていたら
意外にも 『ぼのぼの』 という路線に着地して、
今は5歳の末娘が超のつく ぼのぼのファンである

サンドウィッチマンの芸の深まりも見つめていきたい。
もともと、M−1チャンピオンになるほどの実力者であるが、
震災時に気仙沼の魚市場にいたこの二人が、
どのような深みをもつお笑いを今後見せてくれるのか。
今すぐにではなくても、
やがて笑って笑って泣いて笑うような、
そんなコンビになっていってくれると思う。

マーヒー加藤
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by kaneniwa | 2011-12-31 16:38 | 草評


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