2012年 10月 01日

板額御前の宴

b0061413_22484346.jpg カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した黒澤明監督の『影武者』という映画がある。当初の主演は勝新太郎であったが降板して仲代達矢が代役を務めた。原因は1979年(昭和54年)6月末のクランクイン直後の7月18日、勝が自分の演技を撮影して役作りの参考にしようと自分のビデオカメラを東宝砧撮影所に持ち込んだことによる。黒澤は「演技は監督である私を信用してほしい」と言ったが、勝はそれを拒否して関係は決裂した。俳優の阿藤快がその場にいてテレビなどで証言しているが、私は勝新本人がテレビで証言したのを見たことがある。「相手がたとえ世界の黒澤でも、その時の俺は武田信玄の衣装を着ていたんだよ…武田信玄に成りきって反論しちゃった」と言っていたので笑った。笑ったが、勝新というのはいい意味で「馬鹿」であると思った。武田信玄のカッコをしていなかったら、そんなに激しく監督である黒澤明と口論しなかったのだと言っていた。 コスチューム・プレイ、略してコスプレというと何やらオタク的であったりいかがわしい言葉のように捉えられたりするけれど、PLAYは名詞として「演劇」という意味があることを思えば、この出来事の本質のひとつをついていると言える。ヤンキースの純正レプリカユニフォームを着て野球をやったりすれば、その気持ち、実によく分かったりする。


b0061413_2248398.jpg 本来なら写真を撮った2週間ほど前にすぐにブログ記事にしておけばタイムリーであったのだが、そのまま秋彼岸へと突入し、ズルズルと掲載が遅れてしまったのだが、9月16日の日曜日、板額御前の宴(はんがくごぜんのうたげ)という地元の催し物があり、大きなパレードがあった。板額御前というのは私の住む地元の中世の弓の名手であった女性である。その板額御前を讃えるパレードを先導するのは見事な鹿毛の馬にまたがった徳川家康公であった。立派な兜をかぶり、背中には葵の御紋があった。そのパレードはうちの近くの本町通りの交差点で一休み。気温も32度はあった暑い日であり、休憩中に鹿毛馬もバケツで水をガブガブと飲む。私も自販機で飲み物を買おうとしていたら背後に気配を感じた。その徳川家康公と上杉謙信公が私の後ろに並んでいる。「ど、どうぞ、お先に」と私は順番を譲った。PLAYであるとはいえ、戦国武将のビッグネーム二人をTシャツを着ている私の後ろに並ばせて待たせるわけにはいかない。 ディズニーシーのショーの途中でボートからミッキーマウスが落下して落水してしまって溺れかけたというニュースを聞いたことがある。オリエンタルランドのルールでは、たとえミッキーやミニーやクマのプーさんが熱中症で倒れても、その衣装のままで救護室に運ばれ、そこで初めて着ぐるみを外して応急処置がされるということになっているらしい。そう聞いたことがある。そういう意味では、自販機の前で何を飲もうか迷っている徳川家康公の写真をブログに掲載するということは、ロマンを破壊する暴挙であると言われるかもしれない。確かにコカ・コーラや、ましてカロリーを気にしてのコカ・コーラ・ゼロ、あるいはジョージアの缶コーヒーのコロンビア・エメラルドマウンテンなどをチョイスしていれば私自身のロマンにもヒビが入っていただろう。しかし、さすが家康公と謙信公である。この自販機のラインナップ中で選んだのがちゃんと緑茶の「綾鷹」であった。


マーヒー加藤
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by kaneniwa | 2012-10-01 22:49 | 草評


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