2012年 10月 10日

まったくプリンターってヤツぁ

1年前、こんな感じの文章が載せられたプリンター(印刷機)のカタログを手にしていた。
メーカー名は出さないけれどもエプソンとキャノンが大きなシェアを持つ分野で
業界の3位あたりのところでがんばっているメーカーの1年前の新製品。

「本製品はスキャナ、コピー機も兼ねた複合機です。
 ただ、正直言って写真の印刷なんかは得意じゃないしそんなに高機能じゃないです。
 でも、考えてみてください。写真を大量に刷る機会は年賀状の季節以外に
 何回ありますか?その代わり、無線LAN機の複合機としてはシンプルに徹して
 通常の使い方におけるスムーズさと快適さに配慮いたしました」


というような(うろ覚え)、カタログとしては珍しく「謙遜している」内容。
実はこの謙遜が入った広告文に惚れ込んでその製品を購入した。
写真印刷に関しては、その謙遜にウソはなかったことには苦笑いをするしかないが、
(他社のデモンストレーション印刷物に比べれば、それは見劣りする)
基本性能のスムーズさに関してもそんなにウソはなかったので満足した。

ふと1年前の、そのカタログの広告文になぜそんなに惹かれたのかを考える。
そうだ、たぶんそうだ。
高機能を謳うプリンターの不具合に泣かされた人がいかに多く存在したかだ。
CDに写真プリントや印字なんかできなくて構わん。
(そんなもんマジックで手書きした方が早いし後から探しやすい)
印画紙に写真が綺麗にプリントできなくてもいい。
(結婚式や遺影など、本当に大事な写真は普及型プリンターなどでプリントしない)

明日の朝までに刷らなきゃいけない大事なものが数枚、
スムーズに印刷できてくれたらいい。
数枚がスムーズに出てきてくれさえすれば、
後はすぐにそれを持ってコンビニに駆け込んでコピーをとるだけでいい。
コンビニにはいいコピー機が置いてあるがプリンターは売っておらず、
プリンターのためのインクさえ売っていない。
今は深夜なので誰かにプリンターの不具合を見てもらうこともできない。
頼むから、頼むから数枚の整えた資料だけはスムーズに出てきてくれぃ…!
という、謎の祈りを捧げた人間がいかに多かったか、ということを想像する。
ただ、この謎の祈りは切実だった。

ワープロ専用機(ちょっと懐かしいな)の時代には、
本体の不具合も印字の段階でのストレスもほとんどなかった。
「ワープロだもの」
という地に足がついた落ち着きがあった。
常にフリーズしないという信頼があった。

かつて感熱紙(ちょっとなつかしいな)は文具店はもちろんコンビニにも置かれていたし、
インクリボン(さらになつかしいな)もシャープや東芝、CASIOといった大手メーカーの
ものなら、フロッピーディスク(なつかしいな)の隣あたりにあった。

WindowsでもMacでも、OSのバージョンが上がれば、
そいつと組むことになる従来のプリンターというヤツは戸惑いを隠せない。
「去年までの上司は指示も的確だったし、打ち解けていたのに」
と常に愚痴をこぼす、ちょっと危険な部下のような存在になる。
プリンターの方が最新機種でありパソコンのOSが古い、というパターンは少ない。
(ような気がするし、たぶんそうだろうなぁ)
ふてくされた部下は肝心な時に上司の言うことを聞かない。
上司(パソコン)に指示を出してきて、あとは部下ががんばってくれたら
それでプロジェクトは終了で楽しい打ち上げが待っているのに、
その仕上げの段階で部下が反抗していたり拒絶をしている。
新しい上司の指示にふてくさり怒っているのか、プルプルと震えたりしている。
そんなオフィス現場での混乱を目の当たりにすると忸怩たる思いになる。
大量の文書を刷らなければいけない機会は減っているが、
かえって「この1枚だけは出さなければ…」というような場面が目立つ。
コピー機にかける前の原本の重要度のような、
そんなプリンターの仕事のクオリティ度はむしろ上がっている。
先発投手だった時代のように球数を投げなくてもよくなったが、
9回裏ツーアウト満塁で「あと一人」という場面に登場するリリーフに
役割が変わっただけに、抑えてくれなかった時の落胆度は大きい。

1年前は、そんなオフィスのブルペンに当たる場所に待機してくれるだけでいいから、
有線でモノクロの、いちばんシンプルなプリンターを探していたのだ。
「私はモノクロ印刷しかできないプリンターですが、そのかわり、
 その仕事に関してはだけはスプリンターです」
というような人材を探し当てたかった。
ところが、そういう機種はむしろ高価な携帯用が主流であった。
安いものもあるにはあったが、モノクロであってもブラウン管時代の
カラーテレビ(わざわざテレビにカラーをつけるのもなつかしいな)と、
印刷における色の三原色は違うからか
インクは黒だけでなくシアンもマゼンタもイエローも要る。
(おそらくモノクロ写真などの濃淡を出すために不可欠なのでしょう)
そして、ハッキリ言って複合機も含めて特売品のプリンターは安すぎる。
安すぎるというとほめているように思われるかもしれないが、
高すぎるインクを売らんがための安すぎを察知する。

そんななかに「謙遜」が入ったプリンターのカタログが目に入り、
大いに惹かれてしまったという、そんなケースであった。

一年後、満足している。
上司の言うことを素直に聞くいい部下だ。
欠点は、ちょっとそそっかしいところがあることか。
キーボードの「P(せ)」の後に何かを打った時に
「えっ、プリントですか?」
と、そそっかしく電源が入って起動してしまう。
その突然の起動の時の音が
「チューゥゥゥ」
とネズミの鳴き声にかなり似ているので、
深夜などにはビックリしてしまう。
まあ、不満はそれぐらいかな。


以上の長文は、事実でありごく普通の雑感であるが、
わざわざ記したのは、今週の日曜日の夕方に
シャラポア(妻・日本人)といっしょに
三遊亭鳳楽さんの独演会
(近くのお寺である広厳寺さんが催してくださいました)
を堪能し、正統派の古典落語にふれたがゆえに
ヘンな創作落語を将来、作りたくなったがゆえのメモでもある。

今の段階で、考えているオチはこんな感じである。

プリンターってぇ奴ぁ、上司であるパソコンの指令なんてぇ
そう簡単にゃ聞かないよ。
なんせスレた奴だから。

マーヒー加藤
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by kaneniwa | 2012-10-10 22:34 | 草評


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