2008年 01月 08日
相模守時頼の母は、松下禪尼とぞ申しける。 守をいれ申さるる事ありけるに、すすけたる明り障子の破ればかりを、 禪尼手づから、小刀してきりまはしつつ張られければ、 兄の城介義景、其の日のけいめいして候ひけるが、 「給はりて、なにがし男に張らせ候はん。さやうの事に心得たる者に候」 と申されければ、 「其の男、尼が細工によもまさり侍らじ」 とて、なほ一間づつ張られけるを、義景、 「皆を張り替へ候はんは、はるかにたやすく候ふべし。まだらに候も見苦しくや」 と、重ねて申されければ、 「尼も、後はさはさはと張り替へんと思へども、今日ばかりは、 わざとかくて有るべきなり。 物は破れたる所ばかりを修理して用ゐる事ぞと、 若き人に見習はせて、心つけんためなり」 と申されける、いと有り難かりけり。 世ををさむる道、儉約を本とす。女性なれども聖人の心にかよへり。 天下をたもつ程の人を子にてもたれける、誠に、ただ人にはあらざりけるとぞ。 (吉田兼好法師 『徒然草』 第184段) 北条時頼のお母さんは、松下禅尼という。 ある日、時頼を家に招いたことがあった。 煤(すす)で汚れた障子の破れた個所のみを、その松下禅尼が自らの手で、 小刀を使いこなし、切り取ってつぎはぎをして貼り替えていた。 それを見て、その日のホームパーティの幹事である兄の義景が、 「その仕事は私におまかせください。 そういうことが得意な男がいますので、そいつに貼らせましょう」 と言うと、 「その男は私の細工にはかなわないでしょう」 と言って、やはり一コマずつを貼り替えていた。 義景は、 「そんなら全部貼り替えちゃった方がずっと楽でしょう。 それにそれだとおニューの部分と古びた部分のコントラストがまだらで カッチョ悪いですよ。」 「私も後でさっぱりと貼り替えようと思っているのですが、 今日に限ってはわざとこうしておく方がいいのです。 物は壊れてしまったところだけを修理して使うものだと、 若い人に見習わせてやろうというコンタンでしゅ!」 とおしゃった。殊勲賞だ。 政治の道も倹約が基本だ。 女性であるが聖人の心とまったく同じだ。 北条時頼という世の安全保障を引き受けるほどの人を わが子として持った尼僧は、やはりただ者ではなかった。 超訳BYマーヒー
by kaneniwa
| 2008-01-08 22:50
| 徒然草
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