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2008年 07月 06日

仮想・裁判員制度 (4) 戦前の日本の陪審員制度

さて、マーヒーが仮想裁判員として裁判に加わっている仮想裁判の
シミュレーションであるが、現在、被告人の 「無期懲役」 か 「死刑」 かの
評決の最中であり、マーヒーは 「こんなことを多数決で決められるの?」
という根本的な問いを発したところである。

刑法のなかで、「それは決められないのじゃないの」 という主張の根拠と
なる、おそらく裁判官はそういう場面ではまったく予期していない法律に
ふれる前に、 日本にも陪審員の制度が、戦前ではあるが、かつては
あったことを歴史のお勉強としておさらいしておきたい。

仮想裁判、この歴史をお勉強して、暫時(さんじ)休廷といたします。



英語なら JURY (陪審、陪審員)という言葉に、陪審という、何だかこなれて
いない訳語が与えられているということに、以前、疑問をもったことがあり、
ネットでお勉強させていただいたことがある。
これは裁判官にしてみると 「裁判官が思いもよらぬ法律」 のなかの
一つなのである。(本筋ではないよ、仮想裁判で本命の法律はまだ温存してある)


かつて、1928年から1943年まで、日本には陪審法というものが存在したのだ。
1923年から5年間の準備期間 (今の裁判員制度導入より慎重だぞ) の間に
3339回の講演会で124万人の聴衆を集め、284万部のパンフレットを作成し、
さらには11巻の映画を作成した。


この陪審法の成立のきっかけになったのは、実際にいくつかの事件がきっかけに
なっているのだが、もっとも大きな契機になったのは 1910年の
大逆(だいぎゃく)事件ではないかと思う。
大逆事件というのは、幸徳秋水ら社会主義者26名が起訴され、
密室の非公開裁判での判決で幸徳ら12名が死刑となった事件であり、
その12名のなかに高木顕明さんという真宗大谷派の僧侶もいた。

さて、1928年から導入された陪審法における陪審員は直接国税3円以上
を納める日本国民の男子から無作為抽出で選ばれた12人で構成された。

アメリカ合衆国と同じ12名だったのだ。3円というのは、これは貨幣の価値が
ちがいすぎるのでピンとこない。一定以上の税金を納める男子という限定の
範囲のなかだが、無作為抽出というのは具体的にはどうなっていたのか、
なかなかそれがわかる資料は出てこないのだが、本当だとすれば
かなりイメージする 「陪審」 ということに忠実だ。

その陪審法での対象事件(裁判)は、被告人が否認をしている重罪事件で、
12名の陪審員はそこに有罪か無罪かの結論を出す。
「有罪か無罪かを結論づける」という点はアメリカの陪審員にそっくりだ。

ただし、その結論を裁判官に対して 「答申」 するのだが、
裁判官はその結論に法律上拘束されるということはなく、
陪審員に審理のやり直しを命じることができた。
(すると、何だか意味がないような気も少しするのだが・・・)

また、被告人は、陪審員による審理か、裁判官による裁判かの
選択ができたという。

この法律によって行なわれた陪審裁判の件数は484件。
無罪率は16.7%だった。
(無罪率は、今の裁判よりも大幅に多いのではないかな?)

さて、1943年に陪審法は 「停止」 になるのだが、
その理由は何だろうか?
「15年やってきて制度が定着しなかった」
というのは、当然考えられる理由なのだが、正味のところ
「戦争が激化してしまって陪審制度を維持するための
予算も労力も・・・それどころじゃなくなってしまいました」
というところではないのだろうか。

裁判員制度が、さっそく定着せずに消滅してしまうような
制度だったら、それはそれで困りものなのだが、
後者の方の理由は、もう二度とあってはならないだろう。

ここまでは歴史のお勉強というか、日本の裁判史の確認のようなもの
なのだが、驚くべきことは、いやあ、この裁判員制度に関心のある
人なら心の底から驚くべきことだと思うのだが、何と、
この1943年まで続いた陪審法は 「廃止」 ではなくて 「停止」 なのだ。

つまりですね、現代でも、この陪審法は効力が停止したまま法律として
「生きている」 のです。 死んでなんかいません。

映画のDVD再生でいうなら、ポーズ(一時停止)ボタンを押したまま
再生を待っているという状態なのです。

まさか、ポーズボタンを押したままで新しい裁判員制度のDVDを
陪審法の上に重ねて再生するようなムチャをするのでしょうか?

ここまで 「陪審法」 を停止したままだったということ自体が
「法律というものをどう思っているのか」 ということについての
大ポカだったと思うのです。

ちゃんと 「陪審法」 を廃止にして、その上で審議を重ね、
それに代るものがどうしても必要であるのならば国民の理解を
得ながら新しいものを構築していくということが、
法治国家ならば当然とられるべき手順だと思うのです。

このままでは来年の5月以降を
想定しているマーヒーの仮想裁判のシミュレーションのなかでも、
司法試験にちゃんと合格したはずの裁判官に尋ねてみなければ
なりませんね。

「ところで陪審法はどうなっているのですか?」 と。

もちろん、マーヒーが聞き正したい本筋はまた別にあります。

仮想裁判のなかで、死刑を実施する際の矛盾を現行刑法のなかから
質問し、問いただすことになっていきますが、それはまた次回。

(いつの間にか文体がデスマス調になっていたな・・・)

マーヒー加藤
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by kaneniwa | 2008-07-06 23:20 | 草評


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