2008年 07月 08日

仮想・裁判員制度 (5) 死体遺棄罪

マーヒーは考える。
たとえば臓器移植の問題などについて、医師の間にも
それを医学の進歩や新たな展開のために推進したいという意見と、
「それは決して人間が踏み込んではいけない領域である」という
意見が対立する議論がある。 
その答えはお手軽には出てこない。
ましてや、医師ではない私に国家が
「臓器移植手術をやれ!」 と命じることがあったとすれば、
マーヒーは泣きながら 「そんなこと私にはできません」
と言うしかないだろう。
きれい事ではなくて、そんなことできる資格や能力がなくとも、
仮に、どこかから臓器移植の知識を付け焼き刃で教えられ、
3人の医師と私の他の5人の仲間といっしょに
「さあ、いっしょにやってみましょう」
と言われたとしても、「踏み込んではいけない領域」 という
思想がそれを拒んでしまう。

極端すぎる譬喩を冒頭に出したのかもしれない。

でも、極刑が死刑であるという日本で、裁判員がその決定にまで
踏み込むということについて、マーヒーは
「それは絶対に踏み込んではいけない領域」 だと同じように感じる。

さて、現在の施行予定での裁判員制度は、
「被告人の生か死か」 という領域に、迅速性と効率重視の制度は
原則3日以内の期限で、被告人の生か死かを決めることが想定でき、
今、マーヒーの頭のなかでは、その仮想裁判が行なわれており、
よりによってその判定が多数決で決まろうとしている。

その仮想の裁判のなかで、マーヒーは、仮想の裁判長も、
まさか裁判員がそんなことを言い出すとは思わずに驚いているのだが、
刑法188条の第2項の 「お葬式をする権利」 (について書いてあると思うぞ)
と、同じく刑法190条を引用しつつ、死刑囚の死体がどのように扱われる
のかという問題を裁判員としての審理のプロセスで問うことになった。

刑法190条は、「殺人ならびに死体遺棄で」 の 「死体遺棄」 に使われる
時の法律である。これは、埋葬法や衛生法との関連もあるし、
厚生労働省が散骨を認めたためにその関連法とも区別される法律だが、
基本的にはずっと昔から刑法として成立している罪なのである。
 
ちなみに、「死体遺棄」「死体遺棄罪」を和英辞典やネットの和英機能
などで調べてみても、なかなかこなれた英訳が出てこない。
日本以外の外国の法律に詳しい方がおられたら、是非とも
「殺人」(これはどの国でも重罪に決まっている)を隠そうとする
「証拠隠滅」に関する法律は何らかの形であるとは思うが、
「遺体を傷つけたり、遺体をゴミとして破棄」 したことそのものを
罪として問う法律が、他の国にもあるのだろうか?

英訳だけを調べるという不徹底で、こんなことを述べていいのかはわからないが、
「死体遺棄」を「罪」として問う思想は、これは、思うに、もしかしたら聖徳太子が 
「十七条憲法」 を策定して以来、脈々と受け継がれている
日本の文化なのではないだろうか。

たとえば、最近の事例でいうのならば、中国の四川大地震で発生から
72時間以上を経てから出動要請を受けた日本の救助隊は、懸命の活動
にも関わらず、生存する被災者は残念ながら一人も救出できなかった。
しかしながら、「ご遺体を決して遺棄することはできない」文化をもつ日本人
救助隊員たちの、助けだそうとしたがそれがかなわなかったことへの
申し訳なさを込めてご遺体に合掌したその姿は、かつては優れた仏教文化を
もっていた中国の人々に 「何か」 を問いかけたはずだ。

さて、マーヒーの刑法188条と190条を持ち出しての問いかけは、
自分が量刑にまで関わることになった裁判で死刑となる被告人であるから、
たとえ被告のお葬式をしたといっても、
その罪の意識がなくなるはずはないけれども、
席は遠くとも実際に対面したこともあるわけであるし、
せめてお葬式をその遺体を前に執り行う義務があるのでは
ないだろうかということと、その遺体となった時の被告が、
解剖の献体の申し出などは本人の意志決定であるとして、
その後、私が考える「当然扱われるべき扱われ方をしているか」という
懸念からである。
もっといえば、「国家による死体遺棄罪」 の可能性がまったくないかどうか
を確認するためである。
少なくとも、死刑執行に関する書類の保存期間はわずか10年であって、
書類として捨ててはいけないはずのものがシュレッダーにかけられる。

やっぱり、ここまで仮想しても、重大犯罪の量刑にまで
裁判員が関わるということは、
「けっして踏み込んではいけない領域」
であるという意を強くもつ。

以下は、マーヒーが考える、死刑囚が刑の執行後にどうなっていくのだろうか
ということの想像である。想像だから、記載することは許されると思うが、
想像力、イメージ力の強すぎる方は、読まない方がいい。




法務省では2001年から死刑執行に関する文章を10年間保存し、
その後は廃棄することになった。
従来は永久保存していた死刑執行命令書、及び死刑執行始末書は
10年間しか保存されないのである。

日本の死刑は 「絞首刑」 であると定められている。

刑壇から落下して、死刑囚の首が絞められるのだが、
思うに、特定の刑務官に 「人を殺した」 という罪の意識を
もたせるわけにはいかないので、複数の刑壇落下ボタンを
複数の刑務官がボタンを同時に押すというような措置がされて
いるのではないだろうか。
それでも、刑に立ち会った刑務官は、罪の意識から
深夜に悪夢にうなされることがあるのではないだろうか。

刑の執行後、医官によって死亡が確認される。 
生体反応が確認されなくても、監獄法第72条によって、
死亡確認後5分間はそのままの状態で放置しなければならない。

5分経過したら、刑務官によって遺体は降ろされ、
医官は再度死亡を確認し、死亡診断書を作成する。
その時の遺体の状態は、酷すぎて想像に耐えない。
清拭が行われ、遺体は安置される。

死刑の執行に立ち会う検察事務官は、執行始末書を作り、
検察官と拘置所長は、執行始末書に署名押印をすることは
刑事訴訟法478条で決まっている。

死刑執行後に法務省から死刑が執行されたことの発表が
行なわれ、死刑囚の遺族に連絡が行く。
遺族への連絡は、死刑囚の遺体と遺品の引渡しの確認のためだ。
マスコミなどは、この遺族への連絡をもとに、執行された
死刑囚を特定する。

拘置所では死刑執行後24時間は遺体の搬出はできない。
火葬許可証は死因が伝染病でもない限り医師の死亡確認後
24時間以上を経過しないと発行されない。

多くの場合、翌日に遺族が遺体と遺品の受け渡しにくることになる。
なぜか日記類は渡されない。

そして、ほとんどの死刑囚遺族は遺体を引き取らない。

その場合、拘置所で何らかの形で葬式がおこなわれる。
その後、火葬場で火葬される。

遺骨も引き取り手のない場合は、拘置所のある行政地区の墓地に
納骨される。

その墓地の場所は公表されることはない。


マーヒー加藤
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by kaneniwa | 2008-07-08 01:37 | 草評


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