2008年 08月 18日
「何事も邊土は賤しくかたくななれども、天王寺の舞樂のみ都に 恥ぢず」 といへば、天王寺の伶人の申し侍りしは、 「當寺の樂はよく圖を調べ合はせて、ものの音のめでたくととのほり侍る事、 外よりもすぐれたり。故は、太子の御時の圖、今に侍るをはかせとす。 いはゆる六時堂の前の鐘なり。 其の聲黄鐘調のもなかなり。 寒暑に隨ひてあがりさがり有るべき故に、 二月涅槃會より聖靈會までの中間を指南とす。 秘藏の事なり。 此の一調子をもちて、いづれの聲をもととのへ侍るなり」 と申しき。 凡そ鐘の聲は黄鐘調なるべし。 是れ無常の調子、祇園精舎の無常院の聲なり。 西園寺の鐘、黄鐘調に鋳らるべしとて、 あまた度鋳かへられけれどもかなはざりけるを、 遠國より尋ねいだされけり。 淨金剛院の鐘の聲、又黄鐘調なり。 (吉田兼好法師 『徒然草』 第220段) 「どんなもんでも京都から離れるほど下品で粗くてロクなものはないけれど、 大阪の天王寺の舞楽だけは、これは京都にも匹敵するほどの見事なもんだ」 というと、天王寺のミュージシャンが言うには 「うちの寺の音楽は図竹という調律用の笛で入念なチューニングをしてまんねん。 せやから楽器のハーモニーが完璧でよそ様よりもすぐれていまんねん。 聖徳太子の時代の調律(ここでは鐘)が今もあって、それを基準にしていまんねん。 日本の仏教界では聖徳太子は絶対やからこれがホンマの絶対音感や。 そのチューニングはお堂の前の鐘の音と同じで、楽器の基準音はその鐘の音と 完璧に一致してまんねん。 しかも、あんまり寒い日や暑い日は鐘の周波数にわずかながら違いがあるので 旧暦の2月15日の釈迦の命日から2月20日の聖徳太子の命日までの間に 出る鐘の音を基準にしますねん。 これがうちの寺の秘伝だす。 この鐘の音を絶対的な基準にして、 どの楽器の音も入念にチューニングしてますねん。」 ということだった。 たいていの鐘の音はA調であるべきである。 この音が響き消えていくことが、諸行無常を感じさせてくれる。 インドの祇園精舎のなかの無常院から聞こえてくる音がこれだ。 京都の西園寺の鐘はAの音がラララと出るように何度も何度も鋳造(ちゅうぞう) されたのだけれどうまくいかず、製造を中止して遠くから鐘を探し出して お取り寄せしたという。 浄金剛院の鐘の音が、これまたバッチリ A (ラッパのラ) の音を出す。 超訳BYマーヒー
by kaneniwa
| 2008-08-18 00:54
| 徒然草
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