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草仏教ブログ

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2009年 07月 16日

南無阿弥陀仏とアメイジング・グレイス(9) 試訳編(2) the sound

Amazing grace how sweet the sound
That saved a wretch like me.
I once was lost but now am found,
Was blind but now I see.

the sound には 福音(ふくいん) という訳を考えてみたい。
一見、無茶なようだが、少なくとも 観音 よりはずっとピッタリくるはずだ。
観音 というのも改めて見ると不思議な言葉だけれども。

アメイジング・グレイスの日本語訳やメロディにのせて歌う
ことができるようにした歌詞としての日本語訳、これは本当に数多くある。
そのなかで私の調べ方や検索の仕方も悪いのだろうが、the sound を 福音 という言葉で
訳しているものにまだ出会っていない。
私としては the という定冠詞がついていることもあって
「福音という言葉以外は出てこない」 というほどなのに。

私がキリスト教の素人であり門外漢であるからこそ浮かんでくる言葉なのかもしれない。



福音 という言葉の初出は、1837年(天保8年)年にシンガポールで木版印刷された
『約翰福音之傳』である。これは新約聖書の 「ヨハネによる福音」 の部分である。
この本は何と今現在でも紀伊国屋書店で復刻版を買うことができる。
8400円するけれども。
(あ、念のために確認したら紀伊国屋書店では現在在庫切れです)

マカオのイギリス商務庁主席通訳官カール・ギュツラフ(オランダ伝道協会)と
岩吉、久吉、音吉(名字の方は判明しないというよりも最初からなかったのだろう)
という三名の漂流した日本人によって1835年12月(天保6年)~1836年年11月(天保7年)に
訳されたものである。

あ、書きながら今気がついたけれども、 福音 という言葉が出てきたことには
三人の日本人のうち、音吉さんの名前の影響もあったかもしれないなぁ。
ただし、音吉さんの読みは 「おときち」 に違いない。
もしも福音の音(いん)だったらインチキになってしまもの。

「日本における初期キリスト教の聖書訳出作業の際の仏教文化の影響」
などという研究テーマは、おそらく実に意義のあることであり、
今回はとても書ききれないが、まだ卒業論文のテーマを決めておられない
全国の神学、仏教学、歴史学などを専攻する学生さんがいたら、
是非とも取り組んでいただきたい。
そしていろいろと教えてね。

ともかく、死の危機に直面した漂流経験がある作詞者ジョン・ニュートンにとっても、
漂流して流れ着いた日本人が関係する歴史をもった言葉を使われることは
本望(確認するすべはないけれど・・・)であると思う。

福音の元になっている言葉はEvangeliumである。 私になじみがある言葉でいえば
テレビ東京で放送されたアニメの 『新世紀エヴァンゲリオン』(新世紀ヱヴァンゲリヲン)
の「エヴァンゲリオン」もこのギリシャ語のエウアンゲリオンをラテン文字で表記した
「Evangelion」に由来するようだ。

イエス・キリスト以前からあった言葉のようだ。
エヴァン(グッドな)ゲリオン(ニュース)という意味で使われていたようで、
マラソンの元となった古代ギリシャのマラトンの戦いの勝利報告のための伝令などは
まさにグッドニュース(エヴァンゲリオン)を知らせるために42キロと195メートルを
走ったのだ。 福音 という創られた日本語にもこの本来の意味はあり、
新薬が開発された時の新聞の見出しに 「患者さんたちに福音」 と載ったりする。

さて、福音 という日本語は創出されてから実にさまざまな用語例で使われ、
日本におけるキリスト教の教理においても特別な意味を派生してくるのであるが、
ここでは アメイジング・グレイス という歌の訳のためだけに、
もっとも基本的な 「イエス・キリストの言葉」 もしくは 「キリストの教え」
というところで押さえておきたい。

歌のなかで sweet という、非常に幅広い言葉が置かれているため、
how sweet the sound は
「何と甘美な響きであろうか」
という日本語のバリエーションで訳されることが多い。

sound が響きであることは間違いないにしろ、
何の響きであるかといえば、その内容はおそらく
「私ごときの愚か者を救ったイエス・キリストの言葉の響き」
なのである。

the sound の訳語に 福音 を使いたい理由はもう一つある。
福音という 阿弥陀された(変換ミスだけれども・・・)
編み出された日本語の方から
英訳を見ていけば、Gospel という言葉が容易に見つかる。

私は 「アメイジング・グレイス」 という歌に出会ったのは、
ゴスペル・シンガーのMahalia Jackson (マヘリア・ジャクソン)の歌声によってである。
マヘリア・ジャクソンが歌ったのは今回取りあげている1番の歌詞だけ
なのであるが、その声に走った戦慄の正体をずっと探っている。

そういうわけで、ゴスペルシンガーの歌声の響きは
作詞者のジョン・ニュートンも聞かなかった sound なのだが、
the sound の訳は、そういうわけで 福音 しかないと
私は思った。


マーヒー加藤

by kaneniwa | 2009-07-16 00:02 | 草仏教


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