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2012年 11月 13日

「舞浜」創作のためのノート(2) 視野

「舞浜」創作のためのノート(2) 視野_b0061413_2372288.jpg 人が亡くなられ、取り急ぎ駆けつけるという形の枕経が終わり、お通夜が終わり、お葬式が終わり、初七日のお参りに赴いた時に読経を終えてお茶などをいただく時にかなりの確率でこういうご質問をいただく。「最近、お葬式が多いのですか?」と。はっきりとデータをとったわけではないが、大半の方々が空調が整った病院で亡くなられる今の時代は昔ほどは気候の変化がただちに死因に関わるということは、少なくとも昔ほどはないと思う。ただ、私はケースを重ねて質問者がそういう言葉で質問する意図の深層がわかってきた。質問者には「見えてきた」のだ。ある程度の人口があれば住宅地のなかに一つや二つは必ずといっていいほど立っている忌中の札が見えてきたのだ。斎場の煙も見えてきたし、セレモニーホールに常にといってほど立てかけられている花輪も見えてきたのだ。「あそこはどなたが亡くなったのだろうか」「あそこも大変だっただろう」という気持ちを通じて実際の視野に入ってくるようになったということなのだろうと思う。 私も自分の妻が妊娠するまで街中にこんなに妊婦さんが多いことがまったく視野に入っていなかった。運転中に見る「街を走る人」という存在は交通安全上の意味以上には視野に入ってこなかったのだが、自分がジョギングをはじめると自然に目に入ってくることになった。 

「舞浜」創作のためのノート(2) 視野_b0061413_2373473.jpg アウト・オブ・眼中。つまりディズニーランドという存在がまったく視野に入ってこない私の生活のキャリアは長かった。1983年、私が大学の2回生(関西地方の表現)の頃から東京ディズニーランドは存在していた。世間的な注目も浴びていたことも知っていた。知ってはいたのにまったく眼中になかった。アルバイトに明け暮れて、少しまとまった暇があればオートバイであちこちに行っていた頃だったが、その行き先の候補どころか視野のなかにディズニーランドというものはなかった。ずっとなかった。もっと顕著なのが1989年から90年で、ロサンゼルスのダウンタウンに住んでいた時期がある。その頃に「ニューポートビーチ東本願寺」ができることになったのでダウンタウンからニューポートビーチまで車で往復するたびにフリーウェイでアナハイムを経由し、あのカリフォルニアのディズニーリゾートのすぐ前を何度も何度も通った。今でも時々だが夢にも出てくる道であるのに、ディズニーランドはまったく視野に入ってこなかった。その代わり、そのすぐ近くにあるカリフォルニア・エンジェルス(現ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム)の本拠地のスタジアムばかりが私の視野に入ってきていた。もっとも、それでディズニーランドが目に入らなかったのだろう。

「舞浜」創作のためのノート(2) 視野_b0061413_2374513.jpg 後にヤンキースに移籍してノーヒット・ノーランも達成するのだが、当時、ジム・アボットという投手がエンジェルスのエース格のローテーションに居た。先天性右手欠損というハンディキャップを抱えながら投げ続け、グラブは右脇に挟み打球を処理する時にはそのグラブを瞬時に左手にはめ、ボールを取るとすぐに左手で取り出して送球するという「アボット・スイッチ」と呼ばれる見事なフィールディングをしたことでも知られる。アボットは日本では長嶋一茂と同世代。長嶋一茂が立教大学の4年生であった時、全日本学生野球チームの4番を打っていたが日米対抗の時にアボットの投球にきりきり舞いさせられ連続三振をしていたことも覚えている。そのアボットがエンジェルスの主戦として投げているマウンドがあるスタジアムが見えたという感激でいっぱいで、すぐ隣のディズニーランドはまったく目に入ってこなかったのだろう。私の英語力の不足で勘違いやあるいは私の頭のなかでの美化をしていて正確ではないかもしれないが、ロサンジェルスでテレビを見ていたらアボットがインタビューでこんなことを言っていたのを覚えている。まさに「視野」ということに関する言葉だ。「僕はマウンドの上に居る時がいちばん幸せだ。街を歩いている時、人々が僕の右腕に注目しているのがわかる。僕の右腕はストレンジだからね。でもユニフォームを着てベースボールプレイヤーとしてマウンドに上がる。投球すると人々が注目するのは僕の右腕ではない。この左腕に注目してくれるんだ」 マウンドに立った時にスーパースターとなる彼は実在した「ダンボ」であった。そして数年後、あることをきっかけに東京ディズニーランドが突如、わたしの眼に入ってくることになったのであった。


マーヒー加藤

by kaneniwa | 2012-11-13 00:18 | 七草


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