2013年 07月 25日
この1ヶ月間、ギターというものにご縁があるなぁとつくづく感じていた。この「草煩悩」の一連のシリーズは「物品」がテーマであり、今まではある程度使い込んだものを出してきた。今回は「何だかギターというものが気になるなぁ」という気持ちの高まりで、ずいぶんと久しぶりにマイ・ギターというものを購入したのでそれを紹介するという形だ。選んだのはArt & Lutherie (アート&ルシアー)というカナダ製のもので、Amiという製品だ。製作者の名づけの意図とは違うと思うけれども「南無阿弥陀仏」の「阿弥」だと私は勝手に思っている。写真を撮る時にサイズ比較用のウニを隣に置くことを失念してしまったのだが、フレットのサイズなどはほとんど普通のギターであり、パーラーサイズといって小振りなボディのギターである。実を言うと今年の4月に入ったばっかりの頃にシャラポア(妻・日本人)の友達(お母さん)から中学一年生になったばかりの娘さんがアコーステックギターを欲しがっているという相談のようなものを受けた。「新品のギターを買ってもらえるなら着るものなんかはずっとお姉ちゃんのお古でかまわない」と新中学生の本人が言っているということで「わはは、それなら買ってやった方が中学生時代のトータルでずっと安くつくかもしれませんね」とアドバイスするとお母さんの目も輝いた。ただお母さんが「でも、どんなギターを買ってやったらいいのかサッパリわからなくて…」と言ったので、成り行きで早速次の日にその母娘と一緒に楽器屋さんに同行することになった。知り合いの店員さんに思う存分試し弾きをさせていただくことをお願いして指一本で大人っぽい響きが出せるたいへんにお得な「Dのメジャーセブンス」というコード(和音)と、これは定石で初心者のうちから必ず習得する「G」のコードの抑え方だけを教え、そのお店の5万円以下のギターはほとんど全部を弾かせてもらった。新中学生の女の子はギターを弾きたいという思いが強いのでほとんどギターを持つのが初めてなのに「G」の音も「Dのメジャーセブンス」の音もなかなかきれいな音で響かせた。ただ、私は音よりも弾いている最中の女の子の表情に注目していた。だから、かなりの数のギターの試奏をさせてもらった後で「いちばん気に入ったギターを当ててみせようか?ズバリ、これだよね!」と、アート&ルシアーのAmiを指さすと女の子は「その通りです!」と即答したのであった。小振りなギターで中学一年生の女の子にはピッタリであったということもあるがAmiの音を出している時の表情がとびきり輝いて見えたのであった。 人様に、それも将来のある中学生にギターを教える資格などないのだけれども「C」と「G」と「D」ぐらいの三つのコードだけでとりあえずは完奏できてしまえる曲は何曲かあり、さらにそれに「Em」と「Am」というマイナーコードを覚えてもらうと歌もののバッキングということならかなりの数の曲が弾けちゃうので、そこまでは示唆することにした。その時にこのアート&ルシアーのAmiを借りてみると「おやっ?このギターはかなりいいぞ!」と感じた。まず鳴りがとってもいい。とてもパーラーサイズのギターの音とは思えないほどだ。このギターにはピックガード(ピックを使って弾く時にギター本体をピック傷から守るもの)というものが付いていないのであるが、皮肉なことにピックを使って出す音がいい。ひと言でいえば「ロックっぽいアコーステックサウンド」である。このロックっぽさはどこから来るのか?ということを私なりに考えてみた。オートバイや車でたとえるならば、大排気量で悠々とクルージングする感覚と対極の小排気量でのフル・スロットル感というか「ちょっとムリをしつつの全力疾走感」と言えばいいのか…とにかくその「ちょっとムリをしつつ」のところに精神の回転数が上がったロックぽさがあるのではないかというのが今のところの分析である。そういえば、古いアコーステックでのブルーズミュージックのなかでとびきりロックっぽいロバート・ジョンソンも、ギブソンL-1というやや小振りなギターを使用していた。旅から旅の人生で小振りなギターを使用していたという事情もあるかもしれないが、そこから醸し出される今につながるロック感というものがあると思う。ただ、アート&ルシアーのAmiはギブソンほど硬質な音ではない。ギブソンの音は「ギブソン女卑」ということわざが思いつきそうなほど男っぽく硬質だ。そんでもって「ギブソン女卑」の方が皮肉なことに女の子にモテそうな気もする。「四番マーチン、ホームラン」とか「今夜がYAMAHA」とか「七転びYairi」とか「そりゃTakamineの花だね」とか、そりゃどんなギターでもロックを弾けばロックっぽさというものは出るのは当たり前なのだが、とにかくアート&ルシアーのAmiの音はロックぽさを内に秘めている。そしてそれはギブソンに比べてきらびやかである。それはちょうど、これでギターを始めることになった中学生の女の子にも似合うような元気いっぱいのロックっぽさの響きのようだ。小柄な女の子が飛び跳ねるようなロックっぽさだ。そしてエイジングを経てそれはジャニス・ジョプリン的になっていくかもしれず、ビリー・ホリデイ的になっていくかもしれない(その人生は真似しない方がいいけれども…)可能性も併せて感じた。それでとうとう私も購入した。結果的にではあるが、中学生の持ち物を羨ましがって自分も購入してしまうというパターンの買物は人生で初めてかもしれない。その中学1年生の女の子と同じものを買う時に、ストーカーだと勘違いされないように色だけは違うものを選ぼうと寸前まで思っていたが、とうとう同じ黒塗りをチョイスしてしまった。真似をしても遠く足元にさえ及ばないし、だいたい真似をすること自体さえ私には困難なのだが、やっぱりロバート・ジョンソンの黒い小振りなギターからのロックっぽさへの憧れがあった。ギターファンが怒りそうなヘンな格言まがいのフレーズも入れたが、最後は 藪の中のつむじ曲がり さんが提唱した格言を引用したい。「かわいいギターには旅をさせろ」である。アート&ルシアーのAmiはかわいいギターだ。旅をさせてやりたいなぁ。 マーヒー加藤 草煩悩バックナンバー
by kaneniwa
| 2013-07-25 09:27
| 物草
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