2014年 05月 10日
今年も5月上旬を中心に10日間ほどの筍生活。今年の新作は「たっぷりの刻み筍をひき肉と混ぜたハンバーグ」と今は仕込みが終わって冷蔵庫のなかで眠っている「筍のキムチ」であった。前者は大好評であり、後者も仕込んだばかりで明日の熟成を待つばかりであるけれども味見をした範囲内では「かなり行けそう!」という予感。ただ今シーズン(今年)のコッヘルナンバーは今までのところ和食ばかりになったので、ハンバーグとキムチは忘れなければ来シーズン(来年の今頃)の掲載としたいと思う。さて、久しぶりのタイタンの登場である。コッヘル36番などでも蕗と筍を炊き合わせたものをやっているが、そういうオ・バンザイをみんな総称してタイタンと呼んじゃう。「炊合せ」という言葉がヒントになってくれているのだが、ごった煮ということにしてしまうと写真を撮っても何だか美味しそうには見えない。そこでそれぞれ単独で炊いたものを汁気を切って盛り合わせると器はコッヘルながらなかなか見栄えがしてくるような気がした。酒は嗜好品であるからそれぞれの好き好きであるが、これには実に日本酒が合う。それも5月の薫風の頃、それは同時に私たちの地域では筍の旬にも重なるけれども熱燗よりも常温の日本酒の季節の到来だなぁと嬉しくなる。 ニシンという魚は日持ちがしないのでかなりの昔から内蔵や頭が取り除かれて乾燥させ干されていわゆる身欠きニシンとして各地に流通していた。冷凍技術や流通機構が発達した現在は加熱用の生魚の状態でも売られているし、回転すしで生魚を食べた記憶もある。ただ、食べた記憶はあるのに味の記憶はほとんど印象にない。「美味しかった」という右脳の歓喜よりもはるかに「珍しかった」とか「体験することができた」という左脳の満足の方が優先される結果となっている。右脳におけるニシンの記憶はおせち料理であったりニシンそばであったり、京都のおばんざい屋での感動であったり、すべて干物となった身欠きニシンの方の味の方である。音楽でいうならば刺し身は「ライブ」であり干物は「録音物」である。通常、録音物が実際に見てきたライブに優先するということはなさそうに思うけれども、そちらの方にしてもAMラジオから流れてきた録音物の音楽に右脳を震わせてきた。古いモノラルの録音物などはさながら熟成された干物のようなものであると言えるけれども、干物が刺し身にくらべて古いものであったとしても、こちらがわのココロの鮮度の方がどうも重要な問題であるようだ。そういう意味で(どういう意味か?)身欠きニシンというものはすぐれたレコード(保存物)であるなぁ。身欠きニシンでもスルメでも、現代ではほとんどが機械を使っての乾燥という工程を経てできあがっているのだろうとは思いつつ、そういうものを掘りたてで茹でたてで炊きたてというライブ感覚がある筍との組み合わせで味わった時に、カッコつけ過ぎかもしれないけれども新鮮なココロで「ああ、太陽の味がする」と言ってみたい。 マーヒー加藤 コッヘルバックナンバー
by kaneniwa
| 2014-05-10 01:29
| 草外道
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