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2015年 05月 31日

和田一郎著 『僕が18年勤めた会社を辞めた時、後悔した12のこと』

和田一郎著 『僕が18年勤めた会社を辞めた時、後悔した12のこと』_b0061413_23483282.jpg


和田一郎さんのことは
京都市の一乗寺で三階部分はライブハウスでもある焼肉店を経営されている
「焼肉いちなん」の店主の孫恵文さんから初めて教わった。
ただ、孫さんも和田さんとは直接には会ったことは一度もなかったという。
しかし
「こんなに深い文章が毎日のように更新されるブログはまずない、毎日感服している」
という孫さんの言葉に、私は「和田一郎」という名前だけをメモしていった。
後日、すっかりと私も
 ICHIROUYAのブログ
という毎日更新されてくるその文章にひかれていったのである。
それにしても2012年の3月から
毎日クオリティの高い文章を更新されている和田さんもすごいけれど、
それを2013年中という割合と早い時期に私に教えてくれた孫さんもすごい。
さすが先鋭的でディープな人が集まる「出会い系焼肉店」の店主だ。

今年の2月10日に和田一郎さんが世に出されたこの
『僕が18年勤めた会社を辞めた時、後悔した12のこと』
(バジリコ株式会社 1300円プラス税)
という本を私はAmazonで購入したので、
Amazonの書評の方にコメントを寄せた方がその流布に寄与できる気もするのだが、
私としてはブログでふれたくなった。

和田一郎さんは超一流大学(京都大学)を卒業後に
大手百貨店に勤務され、42歳の時に退職された後は
海外向けのアンティーク着物の販売を始められる。

和田さんが書かれるからには「ただのビジネス書ではない」とは思っていたが、
サクセスストーリーが自慢気に語られたり、
高みに立っての教訓が延々と述べられる本とはまるで違って
「ここまで自分というものを見つめられる人がいるのか」
という驚きのようなものを感じることになった。
実際に情報をとって役立てようという種のビジネス書や啓発書とは違い、
何度も再読したい思想書に近いものだと感じた。

実は私も40歳になる間際まで組織というものに属しながら、
組織から給料をもらって、お陰で借金に追われる心配はなかったけれど
様々な締め切りと仕事に追われる日々をずっと送ってきた。
けれど、私には当時から今に至るまでここまで深く自分をみつめることはできない。

「組織」という言葉自体が、
おそらく「organization」からの翻訳的に編み出された言葉であると思う。
明治時代の古書でこの「組織」に「からくり」とルビがふられているのを見たことがある。
(悔しいなぁ、典拠がなかなかネット検索では出てこないなぁ…)
たとえば人体なども含めて「組織」というものの不思議さも言い当てた
絶妙の読みであると感じた。
心臓や肝臓がどんなに大事であるとしても、
それだけがいかに張り切っても
全体としての「からくり」を阻害してしまうということがあるのだと、
この本を読んでますます感じることになった。
「自分は心臓部にいて休まず働いている」
という思いあがりはあっても、自分を見つめつつ体全体を俯瞰する眼をもてなかった。

これは今日、週刊誌を読んでいたら書いてあったことだが
野村克也氏が初めてホームラン王をとった翌年に
猛練習は欠かさなかったのに大スランプに陥ったという。
その時に南海ホークスのある先輩から
「野村よ、ぶん殴った方は忘れても、殴られた方は忘れないぞ。
 勝負は相手から自分を見ることも大事なんだ」
というアドバイスを受けたことで
(週刊文春2015年6月4日号106ページ)
データというものに目を向けることがはじまったという。

『僕が18年勤めた会社を辞めた時、後悔した12のこと』には、
組織のなかで仕事に没頭しつつ成功を収めていた時期に
周囲はどのように自分を見ていたのか、ということが
とても深いところからまさに後悔という内省から語られている。
和田さんは殴られた方のことを決して忘れていないのだ。

僕の後悔9 信念なんてゴミ箱に捨てればよかった
僕の後悔10 クリエイティブであるよりも堅実であればよかった
僕の後悔11 周りからの評価を得るために長時間働かなければよかった

などの後半の章段のタイトルは一種の「逆説」になっている。
心の真実というものは
「汝の敵を愛せ」(新約聖書)
「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」(歎異抄)
という逆説的な形をとらなくては私たちには気がつきにくいのかもしれない。
そんな逆説を出せるほどに和田さんは自分を見つめたのだと感じた。

書評としても推薦文としても非常に中途半端なブログ文となってしまったが、
ブログをお手軽にまとめた本ではなく内容も重複するところはほとんどなく、
(しかしその名文の書き手は紛れも無く和田一郎さんであることに間違いない)
引用文も少ない本書のなかで、珍しく引用されたこの言葉に
今の世の中の大事な変わり目が照らされているということを強く感じた。
それをご紹介させていただいて終わりたい。
なお、原文が英語であるということもあるがマーヒー加藤流超訳にて、
近日中に法語掲示バージョンにてここに記すことをどうかご了承いただきたい。

何の業績もないように見えるあなたの親が
あなたを愛することで
幸せになっている姿をよく見てほしい


作家ジョージ・サンダース
2013年シラキュース大学卒業式でのスピーチより


マーヒー加藤

by kaneniwa | 2015-05-31 06:47 | 草評


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