2007年 05月 24日
醫師あつしげ、故法皇の御前にさぶらひて、供御の參りけるに、 「今參り侍る供御の色々を、文字も功能も尋ね下されて、 そらに申し侍らば、本草に御覧じあはせられ侍れかし。 一つも申し誤り侍らじ」 と申しける時しも、六條故内府參り給ひて、 「有房ついでに物ならひ侍らん」とて、 「まづしほといふ文字は、いづれの偏にか侍らん」 と問はれたりけるに、 「土偏に候」 と申したりければ、 「才のほど既にあらはれにたり。いまはさばかりにて候へ。ゆかしきところなし」 と申されけるに、 とよみになりて、まかり出でにけり。 (吉田兼好法師 『徒然草』 第136段) 医師のドクトル篤成が、今は亡き後宇多法皇の前で、 法皇のお食事が配膳された際に、 「今運ばれてきたお膳のさまざまな料理や食材について、私は何も見ないで ご質問に答えますので、本草学の大辞典をご参照になってください。 一つも間違えないで正確に答えてみます」と言ったときに、 これも今は亡き六条の内府有房が来て、 「よい機会ですからこの有房も、いっしょに勉強させてください」と言って、 「では質問ですが、『しお』という文字は、何へんでししょうか?」 と尋ねたところ ドクトル篤成は「そりゃぁ土へんです」と答えたので、 有房は「あんたの学問の程度が、これでもうわかっちゃった。 もうそこまでで結構です。もうこれ以上伺いたいことはありません」 と言ったので、ドクトル篤成はその場大爆笑を背にして、いたたまれずに 退出してしまった。 ※ この有房の出した、いじわるな質問について補足すると、 「塩」の正字は「鹽」であり、鹽はどの部首に属するかわかんない ような文字なので、(当時は「塩」も部首の帰属に論議があった漢字らしい) とてもいじわるだが、それだけドクトルが得意気だったので、 トリッキーな質問でこらしめてやろうという意図があったのかもしれない。 超訳BYマーヒー 『徒然草』(上) FIN
by kaneniwa
| 2007-05-24 12:08
| 徒然草
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