2008年 11月 19日
丹波に出雲といふ所あり。 大社をうつして、めでたく造れり。 しだのなにがしとかやしる所なれば、 秋の比、聖海上人、其の外も人數多さそひて、 「いざ給へ、出雲をがみに。掻餅召させん」 とて、具しもていきたるに、各拜みて、 ゆゆしく信おこしたり。 御前なる獅子狛犬、背きて、 後ざまに立ちたりければ、上人いみじく感じて、 「あなめでたや、此の獅子の立ち樣、いとめづらし。深き故あらん」 と、涙ぐみて、 「いかに殿ばら、殊勝の事は御覧じとがめずや。無下なり」 といへば、各怪みて、 「誠に他に異なりけり。都の苞に語らん」 などいふに、上人なほゆかしがりて、 おとなしく物知りぬべき顏したる神官を呼びて、 「此の御社の獅子の立てられやう、定めて習あることに侍らん。 ちと承はらばや」 といはれければ、 「其の事に候。さがなきわらはべ共の仕りける、奇怪に候ことなり」 とて、さしよりて、据ゑ直して去にければ、 上人の感涙いたづらになりにけり。 (吉田兼好法師 『徒然草』 第236段) 京都の亀岡市に出雲という場所がある。 島根の出雲大社から神様を誘致して迎え入れ、 立派な社(やしろ)を造っていた。 しだ某という人の土地なので、紅葉の季節、 そのしだ某が、聖海上人やその他の人もたくさん誘い、 「さあいらっしゃい、出雲のお参りに!ソバガキでもおごりましょう」 と言って、そのご一行様を連れて行き、 それぞれが出雲の神社を拝んで、信仰心のテンションを えらく高めていった。 その時、神社の前にある獅子と狛犬が 背中を向き合わせになって立っているので、 聖海上人はいたく感動して、 「すばらしい! この獅子の立ち位置は、たいへんに珍しい。 おそらく何か深い理由があるのだろう」 と感動のあまり涙を流して、 「みなさん。こんなにすばらしいものを見て、 不思議だとは思いませんか?思えないとしたらあんまりですよ。」 などと言うので、ご一行様の大勢の人たちも不思議がって 「本当だ、そこら辺のの獅子や狛犬とは違っているな」 「京都市に帰ったら土産話にしよう」 などと言い出した。 聖海上人は、ますます立ち位置の理由を知りたくなって、 かなりのベテランで、いかにも博学そうな神職の人を呼んできて、 「この神社の獅子の立ち方には相当の由来があるのでしょうね。お教え願いますか?」 と言うと、 「あの獅子と狛犬のことですか。あれは悪ガキのイタズラです。 まったくけしからんことです」 と言って、元の向きに戻してしまったので、 聖海上人の涙は、空振りのスィングアウトになってしまった。 超訳BYマーヒー
by kaneniwa
| 2008-11-19 17:43
| 徒然草
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